宮城谷さんの作品に触れるきっかけとなったのは、大学時代、友人に、
「宮城谷昌光の孟嘗君が面白いよ」
と教えられ、孟嘗君を読んだことが、宮城谷昌光さん、中国歴史物に興味を持つきっかけとなりました。
それから、宮城谷さんの本を読みだし、その中で、特に記憶に残っている者が、
「沙中の回廊」
です。
この作品が何故好きなのか考えましたが、憧れ、だと思います。
私は、このブログでも書いていますが、親兄弟と不仲です。
さらに就職にも苦戦し、家族、社会共に認めてもらうことがありませんでした。
そのため、この作品の、親兄弟の互いに認め合う関係、そして、自身の力を他人に認められていく、主人公に、”共感”といいますか、憧れがあったのだと思います。
また、主人公が、完璧超人ではなく、失敗もし、反省を繰り返し、成長していく過程が描かれている点も大きいかと思います。
私は、失敗から学び、成長していくキャラが好きです。
私自身が、なにをやっても上手くいかず、反省し、粘り強く挑戦していくことで、人並みにできるようになってきた、という経験が、そういうキャラを好意的に捉えている理由になっているのかもしれません。
内容
中国 晋の国の話。
主人公は、士会。
武術一辺の人間。家は、法を守る役職についており、父は、法に関わる者らしく、信念を持ち、理に反することをしない性格。
士会は、父の人格を好ましく思う反面、物足りなさも感じていた。(もっとうまく、狡く立ち回れば、出世もできたはず、と)
誠実な父が出世しないことに、悔しさと、同じことをしていてもダメだという思いがありました。(「学で出世できるなら、父は今頃トップにいるはず」←こういうところにも、父を尊敬しているところが現れています)
そのためか、法律家の家に生まれたにも関わらず、勉強をせず、武術の道を進んでいました。
①人物の成長
最初に書きましたが、この主人公、士会が、完璧超人ではないところ、そして成長していく過程が描かれている点が、非常に好印象でした。
例
・知識が足りないことを自覚
→武術一辺の士会が、書を読み、勉強を始め、知識の吸収に貪欲になる。
・その国独特の礼の仕方を知らなかったため、笑われてしまうのですが、そこで怒らずに、自分が知らないことを恥じ、知ろうと努める。
なにかと経験するたびに、考え、成長していく姿が、非常に印象に残っています。
②従者との関係
従者を大切にし、従者と親しく話す姿が描かれています。
何気ない場面なのですが、私が好きなところです。(正確ではないです。確かこんな話だったはずw)
「主よ。溜息ばかりしていては・・・」
「溜息を凍らせて、敵にぶつけよ。たちまち敵の戦意は喪失する」
「主よ。戦が始まる頃は、春です。溜息は溶けてしまいます。主の溜息は何の意味もありません。」
「これは一本取られたな」
ワハハ・・。
なにげないやり取りですが、私が好きなシーンの一つです。
そのほか、士会の家は裕福ではなかったのですが、よそで出された食べ物を、従者のために持ち帰ったり、この二人は、最後まで共に行動し、仲の良い関係でした。
③筋を通す
また、何事にも筋を通し、信義を大切にする士会に好感がもてます。
・ある時、士会のいる晋という国が、秦という国の人物Aを晋国へ誘っておいて、その後、国内で事情が変わり、晋に向かっているAを討伐しようとする
→使者としてその人物を誘っていた士会は、悩む
→誘っておいて討伐など信義がない。その決定をなんとかしたいが、自分の身分では難しい
→信義のない国に見切りをつけ、亡命する決意をする
→A討伐戦前に逃亡はしない。本音は参加したくないが、自分にも責任がある
→A討伐戦には参加し、そのまま秦へ亡命する(Aは逃げ延びた)
このような人間性だからでしょう。
亡命した秦の国王、大臣には信用され、晋においても、何代もの王に仕えましたが、全ての王に信用されていました。
④家族仲
学の家系でありながら、父も兄も、武術一辺の士会を許していました。兄は、勉強家ですが、穏やかで、弟の事を認めていました。父も、士会のことを認め、同時に兄も認めていました。
士会が武術で成果を出したとき
父「士会の武は、誠実で、勇気がある」
兄「私も弟を見習わなければ」
父「汝は、学で誠実さを示せ。それも勇気よ」
のような会話をしています。
主人公、その家族、従者と、大変好ましい人物が揃っており、この関係が大好きです。
(ちょっとした軽口も好きです。勉強始めた士会に対して兄が「雨が降るわw」と言ったり→翌日から本当に雨が降ったw)
お互いに認め合い、父と違う道を行ってもそれを咎めず、息子(弟)が成果を出すことを喜びます。
また、弟が、周囲と違うことをするよう提言をしてきても、弟を信じ、提言を受け入れます。
士会も、誠実であり、人を恨むことをしない、温厚な人柄の父と兄を尊敬しています。
こういう関係には、私は、凄く憧れます。私が欲しかったものなので。
(親は毒親。長男も毒親と同じ思考・・・)
周囲の人物
また、周囲に、有能であり、士会のことを認めていた人物がおり、彼らも、非常に好感のもてるキャラクタ―です。
先軫(せんしん)
士会の武術を認め、軍事において、はるかに身分の低い士会の意見を取り入れます。
後に、後を継ぐ息子に対して
「戦のことは、士会に聞け」
とまで言います。
自分を認めてくれ、優れた軍略を持っている先軫と知り合ったことで、士会は成長していきます。
また、息子が、士会の提言を入れて勝利したとき
息子「士会の手柄です。私は、何もしていません」
先軫「汝は、良い言を選び、聞き入れ、成果を出した。それこそが大将だ。褒めてやろう」
と、上に立つものとしての心構えを教え、褒めています。
このセリフ、私は大変好きです。
現実では、部下の足を引っ張ったり、手柄をとったりする上司がいるらしいですが、上に立つものとしての姿勢としては、間違っています。
上司は、部下の良い意見を取り入れ、部下が成果を出せるように場を整えるのが仕事であると、私は思っています。
部下が成果を出したなら喜ぶべきで、部下がそのような成果を出せるようにしたことを、自身の成果とすべきなのです。
現場の成果を出すのは、上司の仕事ではありません。
管理職という名の通り、管理能力を発揮すべきなのです。
敵対していた武術の達人(名前忘れたw)
親戚が士会に敗れていたので、敵対意識を持っていますが、士会と同じ任務に就いたときは、それはそれとして、士会と任務を全うします。(仕事に私情を持ち込まない)
読んでいると、出会いが違えば、士会と仲の良い関係になっていたのでは、と思える人物です。
また、この人物の以下のセリフが、大変印象に残っています。
・自身の評価に不満(何もしていないのに役職を下ろされた)
友人「どうする。反乱をおこすか。協力するぞ」
「いや、それをすれば、(役職を下ろした)評価が正しいことを自ら証明してしまう」
(実は、下ろした人物は、彼の武術を惜しいと思い、戦場で活躍させたかった)
この、気に入らない人間による評価が正しいことを自分で証明してしまう、という言葉は、考えさせられます。
目には目を、という考えも嫌いではないのですが、この言葉を聞くと、軽はずみな行動は慎むべきですね。
他にも、老齢でありながら、反省し、成長する人物が描かれていたり、魅力的な人物がたくさんいます。
あとがき
私は、昔から歴史物が好きでした。
小学生の時は、歴史漫画を読んでいましたし、中学校、高校では三国志等を読んでいました。
そして大学生になり、電車通学となったことで、その時間を利用し、本を読むようになりました。
他の物語でもそうですが、私は、反省し、強くなる。決して完璧でない人間が成長していく。こういうキャラクターが好きですね。
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