北方謙三さんの本は、友人が読んでいて、面白い、と言っていたので、北方さんの作品に手を出しました。
宮城谷さんの中国史を読んでいたこともあり、北方さんの作品の中でも中国史の作品に手を出したわけです。
「楊家将」
この作品は、大変面白かったです。
内容
主人公:楊業と七人の息子たち
中国 北漢所属
宋の時代
楊家という、武力に優れた一族の話です。
楊業と7男2女の子供たちを中心に描いた小説です。
(娘はほとんど話に絡みません)
北漢は、暗愚な帝が治めており、帝は、強く、人気のある楊家を疎んじています。
そのような状態の北漢に、中華を統一せんと、宋という国が攻めてくるところから物語は始まります。
北漢は、楊業の強さでもって持ちこたえていました。しかし、帝は楊業を潰そうとし、楊業は、ついに北漢を見限り、北漢は滅びます。その後、楊業は宋に帰順します。
楊業が軍人であり、息子たちも軍人なため、基本的には、戦場を中心に話は進みます。
印象に残っているセリフ
印象に残っている話がいくつかあります。
・「死力を尽くして戦い、その後は酒を飲み交わす。こういう関係があってもいいのではないか」
宋が戦う遼という国に所属している武将、耶律休哥(やりつきゅうか)のセリフです。
この言葉には、すごく共感しました。
スポーツで言うなら、試合をした後に酒を飲みかわす、という印象でしょうか。
敵と仲良くしない、とか、敵だぞ、とか、妙に敵対することがありますが、それはそれとして、仲良く会話をする、ということは、あっていいと思うのですよ。
(フィクション、漫画等ではよくありますね。妙につっけんどんな態度をとる敵味方キャラw)
対戦相手というのは、それはそれとして、喧嘩すなよ(笑)と思ってました。
・「軍人というのはわからない。何故生きて帰ってきたのに死のうとするのか。生きたなら、次勝つようにすればいいのではないか」
遼に所属する文官(名前忘れた)のセリフです。
負けてきた軍人が、王に死を懇願している時の、彼の考えです。
これにも大変共感したことも覚えています。
生きていれば、負けにより得られた経験というものがあり、それを活かせば、軍人として成長もできるので、生きて帰ってこられるというのも、ある意味才能では?と思います。
(同作者の別作品で、このことを言う武将がいます。それはまた後日)
せっかく生きて帰ってきたのですから、次に活かせばいいという、この人物の考えには、大変共感しました。
負けを知った将は、将来の名将になれる可能性があるのに、ほいほい死なせるなと。
しかし、軍人としては、「負けて生きているのが恥」、という感覚があるので、そう単純には考えられないでしょうけどね。
気になった人物
潘仁美(はんじんび)
宋の軍のトップです。
正直なところ、「優秀でない」、「自分の出世のみを考えている」、という、よくいる嫌われキャラです。
しかしながら、あるところでは、度量の大きさを見せたりしていたので、私としては、この作品では、ややキャラがブレていると感じた人物です。
・「楊家が強いのはいいのだ。楊家など、強くなければ何の意味もない」
彼が言ったこのセリフ、けっこう好きです。
上に立つものとしては、この考え、非常に良いと、私は思っています。
宋という国において、圧倒的に強く、力を持っている楊家は、周囲から嫉妬、警戒されていました。
しかし、潘仁美は、楊家に好意?と言いますか、理解を示しています。
また、自分の息子が楊家といざこざを起こしても、自身の身分を笠に着ることをせず、客観的に息子の非を認め、息子をしかりつけ、楊家に謝罪しています。
現代でも、優秀な部下の足を引っ張る上司、手柄を横取りする上司等、います。
・・・アホとしか言えないです。
上司として、部下を優秀に育てることは、会社のためであり、上司の仕事の一つです。それをつぶすなど、言語道断だと思います。
会社のためを思えば、優秀な部下を育成するのは、プラスでしかないのです。
手柄なら、部下が優秀な結果を出したときに、こう言ってやればいいのです。
「わしが育てた」と(笑)。
笑い話のようにしましたが、これでいいのです。
その上司の元で、結果を出せるのなら、上司として”部下が結果を出せる環境、結果を出せるようにしてきた”、ということが、上司として、管理職としての評価だ、と私は考えます。
現場で優秀なのは、部下に任せておけばいい。現場の仕事は、部下に任せるべきです。
上司の仕事は、そこではないのです。部下の成果に嫉妬をする必要はないのです。むしろ部下が優秀であることを喜ぶべきなのです。
「部下が優秀だ・・調子にのってる。ちょっと痛い目見せてやるか」
ではなく
「部下が優秀なのはいい。優秀じゃなければ意味がない」
ぐらい言ってくれよ、ってことです。
・・・話がそれましたw。
楊家に対して、
「変に警戒せず強さを利用すればいい」
「自分の軍に組み入れる」
等、楊家軍の強さを上手く扱うことを考えていた潘仁美は、軍人をまとめる立場としては、真っ当であると思いました。
(楊業は、好きに戦ができればそれでいいという、野心のかけらもない人物なので、楊業としても望むところの待遇であったはず)
強さに対する理解を示していたり、自身、息子、部下の力量を、客観的に把握できていたり、あるところでは、かなり真っ当な人間であるのです。
こういうシーンを読んだときは、
「お!、思ったよりよい人物じゃないか」
と、一瞬考えました。
しかし、潘仁美は、これ以外が駄目駄目なのです。
ライバル軍人に反抗し、作戦を無視した行動を度々起こし、国のためではなく、自分の都合、わがままで行動をするのです。
上に立つものとしての、最低限の度量は持ちつつ、常識もわきまえているかと思えば、ライバル軍人に対しては、非常識な対応をし、我儘で子どものようになる彼は、なんといいますか、よくわからんやつです。
個人的には、結構ブレているていると感じたキャラです。
こんな人間でも、一部の軍人が潘仁美側についているのは、先に書いた、軍人、強さに対する理解があるからでしょう。
軍人、強さに対する理解がある潘仁美になら、ついていこうと思う武将がいても不思議ではないでしょう。
あとがき
潘仁美の話がほとんどでしたw。
肝心の楊家の人間の話が一切ありませんでしたが、楊家の人間も、大変魅力的です。
個人的には長男が一番好きですね。
兄弟姉妹、全員と腹を割って会話ができ、非凡ではないが、統率力に優れている。
最強の武将ではないが、最高の指揮官といった感じの人間で、非常に魅力的でした。
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